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IAMASの博士後期課程って、なにしてる?

山口達典(博士後期課程1年)

左:平塚弥生、中央:溝淵加奈枝、右:山口達典

「博士後期課程に興味がある方も、そうでない方も、現役学生とおしゃべりしませんか?」

『IAMAS OPEN HOUSE 2025』にて開催された『博士後期課程おしゃべりサロン』。現役学生が入試?学生生活?自身の研究についてお話しつつ、参加者の質問にお答えする企画です。入学時のゴタゴタ、研究のてんやわんや、普段は表に出さない率直な気持ちについてもおしゃべりする会となりました。登壇者は博士後期課程三年の平塚弥生、一年の溝淵加奈枝山口達典の3名。ありがたいことに、オンラインでの参加も含めて多くの方にお集まり頂きました。この度は主催を代表して山口がそのope体育_ope体育app|官网を行います。おしゃべりの雰囲気をそのままにお読みいただければ幸いです。

※このope体育_ope体育app|官网では、「博士」「博士課程」は博士後期課程を、「修士」「修士課程」は博士前期課程(修士)を指して使用しています。

それぞれの研究、なにしてる?

山口: 本日はお集まりいただきありがとうございます。はじめに、それぞれのプロフィールと研究についてお話ししたいと思います。
僕は2022年に広島市立大学というところで修士号を取るまでは美術を専攻していました。 学部生の頃から『美術における人工知能』をテーマに作品を作っていて、そういったテクノロジーとアートの領域横断的な研究をしたいと思い、今年の春にIAMASに入学しました。
研究の内容を簡単に言うと、「ハロルド?コーエンという作家を軸とした『AIアート』の研究」となります。彼は「世界で初めて美術作品の制作にAIを用いた作家」と呼ばれ、近年の画像生成AIの発展を受け、亡くなってなお注目を高めている作家でもあります。コーエンの作家人生で興味深いのは、その最晩年です。彼は自身のプログラムである「AARON」にただ絵を描かせるのではなく、プログラムと一緒に絵を描いて「collaborator」を自称しました。当代随一の芸術家がプログラムと40年以上向き合い続け、機械の創造性、人間の創造性について考え続けた末に辿り着いた結論は、AI時代と言われる現代で必ず参照すべきところがあると僕は確信しています。こうしたコーエンの作家研究、そしていま行われている「AIアート」と呼ばれている作品たちを分析することで、「美術領域におけるAIの創造性」について論じることが、僕の研究となります。

溝淵: 私は近現代音楽を専門に、声楽家?パフォーマーとしても活動しています。音楽大学を出てからはドイツやフランスで現代音楽の演奏を行っていました。音楽や表現は感性で片付けてしまうことが多いのですが、創作の際に自身の考えを論理的に言語化する必要があると強く感じていました。また、音楽以外の分野の方と共同制作をしていくなかで、様々な領域の方とのコミニュケーションをとるための手法や知見を得たいという思いに駆られ、IAMASに入学しました。
私の研究テーマは「複合メディア作品の分析とさらなる理解 -メレディス?モンク《Book of Days》における無時間性を通じて-」というものです。彼女はボイスパフォーマンスを中心に幅広い創作を行っている、アメリカを代表する女性アーティストです。そのなかでも一つの作品に絞り、現代の創作にどのようなリフレクションを得られるのかをテーマに設定しました。研究を通して、メレディス?モンクの再評価と、複合メディアによる創作が当たり前になった現代においてもなお未だ確立されていないその分析手法に関する貢献をしたいと考えています。

平塚: 私の仕事はフードコンサルタント、コミュニティデザイナーです。2018年に岐阜県で初めての製造許可付きシェアキッチンをオープンしたことが研究の転機となりました。みんなで一緒にご飯を作って食べることで人と人が繋がっていく様子をみて、食をシェアする場所が地域に貢献できるのではないかと思い、翌年IAMASに入学しました。そのときは修士課程の社会人短期コースに一期生として入ったのですが、これは通常2年で修了する課程を1年で終わらせる、ちょっと尋常ではないもので、この場で言うのもなんですが、私はお勧めできません(笑) ともかくコースを修了して、これから「みんなでご飯を一緒に作って食べることで人と人の関係が紡がれる」という意義を広めていこうとした矢先、コロナが来たんですね。自分が頑張った研究が全世界から否定された気がしました。このままでは良くないということで、博士後期課程に入学しました。
私の研究テーマは「地域での共食を通じた近接と社会的包摂」です。一人で食べざるを得ない状況は、これからの人口減少に合わせてどうしてもでてきてしまう。そうしたなかで、いかに人と一緒に食べるのかを考えています。では実際になにをしているのかというと、とにかくみんなでご飯を作って食べています(笑) そうした活動を通じて自治会を活発にし、そこでどのようなことが起きたのかを細かく分析しています。このあとの流れは、私がこれから書く論文で明らかになっていく予定です。

山口: IAMASといえばメディアアートというイメージがあるかと思いますが、博士課程になるといろいろなことをやっているということがお分かりになったかと思います(笑)

入学するために、なにをした?

山口: ではこれから、博士課程を希望する方は気になっているであろう「入試」について、つまりどうやって入学したのかについておしゃべりしたいと思います。僕たちは入試を通ってここにいるわけですけど、そのとき、いくつか大学に提出したものがありました。特に大事なのは「志望動機および研究計画書」ですかね。溝淵さんは書いてみてどうでしたか?

溝淵: それがメインですよね。私はこれまで研究計画書を書いたことがなく、やりたいことはフワッとあるのだけれど、それをどのように具体的にするのかが分かりませんでした。それで半年くらい先生と面談を重ねて、第三回の入試で受かりました。やはり研究内容の具体性、つまり道筋がはっきり見えていることが大事ですよね。

山口: IAMASは一年のうちに入試が3回あるんですよね。その第三回を溝淵さんは受けたと。実は僕は第一回と第二回を受けていまして、つまり一度落ちているんです。入学後に先生から頂いたフィードバックとして、第一回のときは「この計画書だとどのように進めるのか具体性がわからないので研究が進まないのでは」という意見があったと言われました。おそらくそういうところを入試ではみられているのかなと、受けた側の印象としては思いますね。

溝淵: 入試の前に先生と密に連絡をとって準備していくことが望ましいです。入学後もそうですが、面談によって自分の考えがクリアになったり、時には混乱したりもします。ただ、様々な領域の先生のフィードバックを受けて研究を深められるのがIAMASの良いところだと思いますので、積極的にコンタクトを取ってみると良いかと思います。

山口: 「研究計画書」のためにもそうですが、入試の際に「研究指導承認書」というものを提出しないといけません。要するに、指導教員を引き受けるという先生の承認が得られて初めて願書を提出できるわけですね。それを頂くことも含めて面談をお願いしていたということですよね。他にも「審査専攻資料」というものを提出しました。僕のように美術をしていた場合は「ポートフォリオ」のようにこれまでの作品や活動を載せることが一般的だと思いますが、溝淵さんの場合はどうでしたか?

溝淵: 音楽をしている私の場合、形に残っているものがあまりないので、これまで行った演奏会の写真であったりチラシであったりを必死にかき集めて、これで大丈夫かな?と思いながら提出しました。

山口: いまここにいるので大丈夫だったはずですよ(笑) 
あと、TOFEL iBTという英語の試験のスコアを提出しないといけなくて…。僕はまったくダメで、入学後に他の博士の学生と「難しかったよね」という話になったのですが、僕が点数をいうと皆さん自分の点数を教えてくれなくて。僕が一番低いんだなと…(笑)

溝淵: TOFELの試験はよく行われているのですが、お金もかかることなので、何度も受けるのは大変だと思います。入試を考えているのであればスケジュールをみて、余裕を持って受けておく方が良いですよね。

入学したあと、なにしてる?

山口: 入学して驚いたことはありますか?

溝淵: 入学式の日にプレゼンをしなければいけなかったことですね。自分の考えをすぐに形にしないといけなかった。ただ、博士は学会で発表する必要があるので、人前で自分の研究を話す機会を定期的に得られるという意味では、良い練習をさせてもらっているなと思います。
実は私も博士課程でなにをするのかよく分かっていなかったんですよね。入ってみて、修了するためにこんなにたくさんのことをしないといけないのかと(笑)

山口: 修了要件のお話が出ましたが、平塚さんはこれまでいろいろとクリアされていると思うので、そのあたりについてお話しいただけますか?

平塚: IAMASは入ったからといって博士論文が書けるわけではないんですよね。博士論文を提出するための要件にいくつか種類があります。

博士論文提出要件 (IAMAS WEBサイト 博士後期課程「よくある質問」より)

まず、大切なのが「査読付き論文」。これはそれぞれの学会が出している学会誌に論文を投稿して採択されないといけません。つまりIAMAS内だけでなく、学外でどれだけ評価されているかがみられるわけですね。そしてどの要件にもあるのが「国際会議発表」です。これは海外でも自分の評価されていることを示さないといけないわけですね。

山口: 世界中の学者が集まる学会があって、そこで自分の研究を発表すると。

平塚: そうですね。私の場合は英語でしたが、英語で論文を書いて、英語でその発表と質疑応答をしなければいけません。

溝淵: IAMASの場合は論文を投稿する学会の基準も比較的厳しいので、自分の研究がどの学会にリーチできるのか、ぼんやりにでもあらかじめ考えておくことが助けになると思います。学会の趣旨に沿わない研究は採択されないので。また論文が採択された場合でも、提出から掲載までに半年くらいかかることが多いので、3年で修了を考えているのならスケジュールはかなり厳しく考えていた方が良いですね。

平塚: 学会もいつも論文を募集しているわけではなく、私もひと月で2本書かないといけなくなって、それはもう思い出したくないくらい大変だったので(笑)
年に1本書いているようだと遅いんですよね。3年生に上がるときに要件をそろえていないと博士論文を書き始められないので。

参加者A: 僕はIAMASの修士学生ですが、IAMASは今のところ掲載料が学校から出ませんよね? 博士の方は学会誌に掲載されるときの掲載料の工面はどうされましたか? 助成金などを引っ張ってくるということですか?

平塚: 学会によって掲載料があるところも、多額にあるところも聞きますが、私が提出した学会は掲載料がありませんでした。

溝淵: 掲載料も含めて、研究を行うために学振(日本学術振興会)を考えている方もいらっしゃると思うんですけど、入学してすぐ申請をしないといけないので、博士課程を検討している方は入試の前から計画的に準備していた方がいいですね。

山口: ご質問ありがとうございます。

そして博士課程は2年生で「プロジェクト」というものをしますが、これはどういったことをしているのでしょうか?

平塚: 皆さんさまざまなことをしています。最大30万円の予算をいただいて、自分の研究に沿ったプロジェクトを計画的に実行して報告するという流れです。私の場合、共食というものはフラットなものであるはずなのに、障害者支援施設で作られるお菓子は、どこか「買ってあげる」といったような差ができてしまっている現状を直したいと思い、プロジェクトにしました。パティシエさんを呼んでお菓子作りの指導をして、デザインも変更し、自動販売機で売るまでの流れを作りました。
この「プロジェクト」が大変で、一年次に研究を積み立ててないと、そもそもプロジェクトの計画が立てられないんですよね。私はあまりきちんとできていなくて、これではプロジェクトができないということで1年休学しました。その間に文献調査をして、研究の方向性を立て直し、それから復学してプロジェクトに取り掛かりました。

溝淵: IAMASの博士課程に在籍している学生は社会人として働きながら研究している人がほとんどで、なかなか両立が難しいようで皆さん苦労されていますよね。私も先輩の背中を見て怯えているところです(笑)

山口: あまり大きな声では言えませんが、博士課程の学生のほとんどが、自分の休学のカードをどのタイミングで切るのかを見計らっていますよね。「プロジェクト」の前に切るのか、後に切るのか(笑)

溝淵: もちろん自分のキャリアパスのために博士号を取るという考えもありますが、良い研究をするために時間をかけること自体は悪いことではないかと思います。

IAMASの博士課程って、なにがいい?

山口: 苦労話が続きましたが、IAMASに入って良かったこともお伝えしておかなければと(笑)

溝淵: 先ほど博士課程に在籍している学生のほとんどが社会人というお話がありました。私たち3人は大垣在住なのですが、その他の学生は県外に住んでいて、オンラインで課程を進めています。それでも入学できて研究を続けられているのはIAMASの良いところだと思います。また私のように外部から博士課程にポンっと入ることが日本では難しい選択肢とも聞いているので、それもメリットではないでしょうか。

山口: 博士の授業は基本オンラインですもんね。

溝淵: そうですね。私たちのように大垣に住んでいると、対面で行われている修士の授業も聴講できたりするのも良いことだと思います。

平塚: 大垣に住んでいると大学の施設が使いやすいのはいいですよね。また私が研究対象にしている「食」は、「みんなで食べられて楽しかったね」ということだけで通り過ぎてしまうんですよね。それを論理的に「それが実際にどのようなことが起きたのか」まで考えられるようになったのは、IAMASに入って良かったことですね。

山口: つまり、そういった研究も深められる場所だと。僕としては、学生と先生の距離が近く、コミニュケーションが取りやすいのが良いところだと思います。実は、修士を出たタイミングでも某大学の博士課程を受けたことがあるのですが、そこは門前払い気味の対応で…(笑) オンラインで面談をしているときに、話の途中で「もういいです」と退出されるなんてこともありました。対してIAMASの先生は、僕のように研究計画書もまともに書けずに入試を落ちた人間であっても、そのあとも面談に付き合っていただけました。「ここをこうしたらいいんじゃないか」といった指導を惜しまれないんですよね。それも様々な分野の先生がいらっしゃるので、僕らのような領域横断的な研究をしたい学生にとっては有り難い大学だと常々思っております。

参加者B: 指導教員との距離が近いということですが、修士課程の学生との関わりや距離感はどのような感じなのでしょうか?

山口: 修士課程向けの対面の授業を受けているともちろん顔を合わせるので、「山口さん最近はどうですか?」といった話にもなりますし、輪読会などを一緒にやったりもします。こないだは「山口さん、僕お腹空きました。ご飯連れて行ってください」と言われて一緒にファミレスに行きましたね(笑) IAMASは修士課程の学生でも僕より年齢が高い人も珍しくなく、年齢的な意味でもあまり分け隔てなく話すことができているかと思います。

平塚: この間も10人くらいでご飯を食べに行きましたね。

溝淵: 今日のOPEN HOUSEもそうですが、イベントがたくさんあるので学内学外を問わず人と関わるチャンスは得られますよね。

参加者B: 私が大学にいた頃は研究室という枠があって、そこで閉じていた感じがあるのですが、IAMASの場合はIAMAS全体が研究室といった雰囲気なんですかね?

山口: そうですね、IAMASは「チームティーチング」という制度をとっていて、基本的には一人の先生に複数の学生がいるゼミ形式ではなく、複数の先生が複数の学生をみてプロジェクトを進行したり、もちろんプロジェクトを超えて話たりもしています。

参加者C: 私は修士号が理論系で、いわゆる実践関係をなにもしてきていないのですが、入学後に芸術実践に関与することはできるものなのでしょうか?

溝淵: 山口さんのように絵を描かれていたり、私のように声楽家としてコンサートに出ていたりといった活動は研究と並行して行えますね。OPEN HOUSEでも博士の学生が自身の研究に応じた作品を展示していたりもするので、モチベーションがあれば可能かと思います。

平塚: 私も実践研究を行っているので、できます。

山口: それを「イチから」できるかが気になるということだと思いますが、IAMASの先生は実践をされている方が多いですし、それを一歩目の内容から質問しても怒られないのがIAMASの良いところであるので、先生と相談すれば問題なく行えます。これもあまり大きな声では言えませんが、以前先生に「IAMASの先生ってすごい話に付き合ってくれますけど、どうしてですか?」って聞いたことがあるんです。そしたら「大垣に話し相手がいないんだよ」って言われまして。大垣って人がいないんですかね?(笑)

平塚: 人はいますよ!!

山口: とにかく話にお付き合いしてくださるので、入学してから先生に疑問をぶつけてみると、いろいろと答えてくれると思います。

溝淵: 先生もそうですし、大学に制作環境も充実していますので、やりたいという気持ちがあればやっていけると思います。

おまけ:大垣って、なにがいい?

山口: 最後に、平塚さんがフードコーディネーターという食のプロですので、おすすめの大垣グルメを紹介してもらって終わりたいと思います。

平塚: みなさんお帰りに寄っていただければ(笑)
まず駅の近くの「朝日屋」さん、『エスプーマカツ丼』ですね。フワフワの泡のカツ丼が有名で、すごく美味しいです。『酢なし中華(冷たい中華そば)』というものもおすすめです。あと、大垣は『水饅頭』が有名なのですが、かき氷の中に水饅頭が入った『水饅氷』というものが「餅惣」さんで食べられます。続いて「Masu Cafe」さんですね。大垣は酒器の枡の全国シェアの8割くらいを占めていまして、これは中にケーキ生地を入れて枡ごと焼いています。実はこれ私が開発したもので、食べれば食べるほど弊社の売り上げに繋がりますので是非お召し上がりください。そして純喫茶の「喫茶愛」さんですね。大垣は喫茶店が多く、私はモーニングの論文も書いたことがあるんですが、東海三県はモーニング文化があります。昔ながらのパフェがあって、謎の水色のソースが底にあったりと美味しいです。
もっと紹介したいけど時間がないですね(笑)




溝淵: 大垣は僻地だと思われていますが、名古屋からも京都からもアクセスしやすいです。住民票を大垣に移せば入学金も安くなります(笑) 進学の際は是非住むことも検討してください!

山口: 「大垣はいい街だ」、が『おしゃべりサロン』の結論ということですかね(笑)
お付き合いいただき、ありがとうございました!